結婚指輪はフルオーダーがいい!指輪作り密着レポート

結婚指輪はフルオーダーがいい!指輪作り密着レポート

毎日身に着ける結婚指輪にはこだわりたい!既製品だと気に入るものがみつからない…。

そんなときにピッタリなのが、フルオーダーメイドの結婚指輪です。

私の指輪、どんな風に作られてるんだろう、って気になったことはありませんか。指輪づくりにひたすら熱い情熱を向ける、指輪職人さんの工房を取材させていただきました。プラチナの塊が美しい指輪になるまでをくわしくレポートします! 細部にまで魂をこめた、匠の技をご覧ください。

“フルオーダーの指輪の製作工程を、ひとつひとつ追って紹介したい。”公式なウェブでは初の試みとなるこの企画に、快くOKの返事をくださったのが、今回訪れたichiさん。ショップと工房が併設している、ユニークなお店です。

ご相談してからしばらくたったころ、「ちょうどイメージにぴったりなオーダーが入りました」という連絡を受けて、ichi渋谷店へさっそくおじゃましました。

今回取材したichiって、こんな工房!

今回伺った工房は、ichi(イチ)渋谷店さん。代々木公園からほど近く、閑静な街の一角にたたずみ、カウンター越しにスタッフの作業風景を見ることができます。職人による一貫した手作業に理想の形を求めて足を運ぶファンも多いそう。

~職人さんのプロフィール~
ichiの創業者でもある小池一央さん。美大で彫金を学んでからこの道一筋の、まさに職人。ブライダルジュエリーの全ての製作を手がけています。

はじめに:工房内へおじゃまします&道具を拝見!

渋谷の喧騒と少しはなれた裏路地に、ichiの看板と入り口が見えます。店内へと続く階段は、この先に露天風呂でもありそうな雰囲気。和の情緒たっぷりです。

店内へ入ると、オーナーが集めたアンティーク家具と自然素材を中心としたichiの商品とが見事に調和。身を置いているだけで気持ちがゆるゆるとほぐれていく感じがします。

こんな風に、商品だけでなく、照明から花器にいたるまで統一された世界観が、ファンを魅了しているのですね。

ここで指輪は作られる!指輪職人さんの工房へ潜入!

カウンターを挟んで、売り場と工房が分けられた店内。皮工房から銀工房に足を踏み入れると、そこはまるで洞窟のよう。

製作に入る前に、リングづくりには欠かせない、愛用の道具たちを見せていただきました。

「このペンチみたいなのが、やっとこです。強い力で曲げるときや、爪でもつかめないほどの細かいものをあつかうときに使います。このかなづちは、おたふくづちね」

「道具はほんとうに重要です。思ったように力が入らないと、いい形にならないので。職人は、道具も自分用に加工して、より使いやすくするんですよ。」

デザインスケッチを眺めて、まずは彫りから!

1:デザイン画を作成

今回、結婚指輪をichiにオーダーされたのは、福士貴光さんと大野木愛美さんのカップル。

まずはカウンセリングです。どんなデザインにしたいか、素材は?予算は?サイズは?と、楽しくおしゃべりしつつも、しっかりとお客さまの要望をヒアリングする、スタッフの竹内さん。お二人はichiのカタログを見て、これもいい、こんなのもいいと悩みつつも、最終的なデザインを決定。

さっそく製作に入るのかな、と思っていたら、デザイン画としばしにらめっこの小池さん。

「まずはとにかく伝票(指示書)をよーく見る。ここにお客さんのイメージや要望がすべて入っているんですよ。デザイン、サイズ、石を入れるのか入れないのか、ねじりがあるのかないのか。ここで必要な加工を把握して工程を考えます。」

ここですべてが決まるという感じでしょうか。

「そうですね。たとえばやりたいイメージがはっきりしないまま来店される 方もいる。そういう方からちょっとずつ話を聞きだして引き出して。そうやって最終的に落とし込んだイメージや想いが、この紙一枚には入ってるんです」

「ここのスタート地点でゴールが見えてこないとダメ。見えてくるまでこの指示書を読みます」

2:地金の形成

さて、指輪の素材。地金が形成されたプラチナです。最初はこんな状態。見たところまっすぐな六角レンチみたいですが。これがピカピカの指輪になるなんて…!

 

3:彫る

「工程はオーダーごとに違います。それぞれ加工がちがうので。今回は先に彫りますよ」

完成図を頭に描きながら、彫る位置、ねじる位置にそれぞれ印をつける小池さん。

カンカンカンと金属音を響かせて、唐草模様の彫りが完成!伝統的な模様の唐草模様は、結婚指輪にあしらわれることの多いモチーフのひとつ。今回のオーダーは、この唐草模様の彫りに、金を埋め込む、というのがポイントです。

素材と相談しながら、バーナーでなまして一気にねじる!

4:バーナーでなます(金属をやわらかくするために熱する作業)

酸素バーナーでプラチナ棒全体に熱を加えていきます。金属は、熱を加えられると原子が分離してやわらかくなり、加工がしやすくなるのだとか。

「さっき彫りを入れるときにガンガン殴ったでしょ。金属って摩擦で加圧すると組織がつまって固くなるんですよ。固いままで作業を進めると、亀裂が入ったり、金属疲労を起こしてしまうこともあります。だから何か加工をする度に、一度なまします。」

※金属疲労:金属が、その引っ張り強さを超える応力を加えられることによって破壊すること

5:やっとこでねじる

さて、なましが終わると間髪入れずにねじりに入ります

「もたもたしてるとまた金属が固くなっちゃうので、一気にいきますよ!」

慎重に位置を定めて、ぎゅいぎゅいいっ!一気に90度のねじりが入りました。

オーダーは180度のねじり加工。あともう90度です。二度目のねじりにいく前に、もう一度なまします。

「一度ねじりを加えたことで、金属の内部組織が磨耗しているんですよ。だからここでもう一度なまします。いつもね、素材と相談するんですよ。 まだいけるかな、もう無理かな、って。そうやって進めていくと失敗しません」

まさに素材との対話です。さあ、残りのひとひねり。せえの、ぎゅいぎゅぎゅいいっ!

固いプラチナ棒がいとも簡単にひねられています。 これでちょうど180度のねじりが入りました。

とにかく叩いて!叩いて!リング状に形成

6:おたふくづちで叩いて成形

次は芯棒に合わせて、リングの規定サイズ通り、丸く成形していきます 。そこでおっ、と目をひいたのは、木台の周囲を囲むこのくぼみたち。

様々な作業に対応するために溝が増え、制作を何度も繰り返すうちに、このようなへこみができたそうです。これはまさに小池さんの指輪づくりの歴史そのもの

サイズをあわせて一気に叩きます。叩くことを“かしめる”とも言うのだとか。

指輪づくりには、のんびり、という言葉は合いません。心を1点に集中して一気に、というのがぴったり。

ゴンゴン、という木槌の音から、ガンガン、というおたふくづちの音に変わりました。

これが十数万円のプラチナリングになる、ということを想像しては心配になるぐらい、結構ガツンガツンと叩いています

「きっとお客様にしたら『そんなに殴らないで~』という感じでしょうね。でも殴るから金属の組織がつまってきゅっとした指輪になるんですよ」

たしかに。音は激しくても、その叩き方には、まるで子どもの頭をなでてやるような優しさが感じられるのが不思議です。

やっとこで仕上げの微調整をして、ようやく指輪の原型ができました。

7:ロウづけ

金属を流し込む誘導剤を塗布してから、溶接剤を流し込みます。このロウづけで、どこがつなぎ目かがまったくわからなくなりました!

この時点で必要に応じてサイズ合わせ(試着)をします。

金埋め加工&ひたすらに磨き上げる!

8:金彫り

いよいよ指輪づくりも大詰めになってきました。次の加工は金埋めとよばれる、彫りの中に金を流し込んで平らにする、というもの。

今回、男性用にはイエローゴールド、女性用にはピンクゴールドを埋めます。

「温度差を利用して金を流し込むんですよ」

それはどういうことでしょうか。

「ゴールドはプラチナよりも低い温度で溶けるんです」

金の加工が完了した状態。このあとはリューターといわれる研磨機でひたすら磨いていきます。

見た目には唐草模様は完全になくなっていますが、本当に金色の唐草模様が出てくるでしょうか。

9:リューターで磨く

リューターといわれる研磨機でひたすら磨いていきます。番数を240番から最後は2000番まであげて表面をなめらかにしていきます。さらに紙ヤスリで細かいところも磨いて。

はたして金色の唐草模様が出てくるでしょうか。

よーく目を凝らして見てみると、うっすらとした金色の唐草模様が浮かび上がってきたのがわかります!

ひとつひとつの工程で、念入りにチェックをする小池さん。

真剣なまなざしで指輪に向き合う小池さんに、おそるおそるこんな質問をしてみました。

「小池さんは、どうしてこのお仕事をされているんですか」

「指輪ばかりじゃないけどね、手で触れられるもの、寸法があるものを信じたいんですよ」

う~ん、深いです。ものづくりをする人の言葉って胸にずんと響きます。

リングの表面に顔が映り込むようになってきました!これで完成といわれても驚かないぐらいの輝きですが、まだまだこんなものではないとか。

これからが本格的な磨き作業です。

10:バフで磨く

ここからはベランダでの作業。バフとよばれる回転体にペーストをつけて、しばらくリングを磨き続けます。ひとつひとつ、ていねいに。

ベランダから戻ってきた小池さん。大満足の笑顔です。

ペーストのついた手には、まさに生まれたてほやほやの、輝いた二つの結婚指輪が。

この瞬間まちがいなく、世界中で一番あたらしい結婚指輪がこの二つでしょう。

ついに完成!フルオーダーメイドの結婚指輪

長い長い工程を経て、ついに世界に二つきりの結婚指輪が生まれました!

長い間、指輪をつくり続けてきた小池さんでも、この瞬間には「ふう~。できました。ほんとによかった」と安堵の表情。

シンプルなデザインながらも、文字通りひとひねり加えられて、凛とした表情が際立つ結婚指輪です。金色の唐草模様もアクセントになってとても素敵。

プラチナの特徴でもある、まじりけのないピュアな白。心地よい重み。そして、“同じものがなく、世界にひとつだけ”。ichiのリングはこれを全部満たしてくれる、本物の結婚指輪。

内側への石留めと刻印を終えて、ついにお渡しです!

「はめてみていかがですか」

「けっこう存在感ありますね」とは貴光さん。お仕事の関係で普段は指輪をはめることができないので、休日にはめるのが楽しみ、とのこと。

「いくつか見て回ったけど、やっぱりここに決めてよかったです。イメージ通りの指輪ができました」と嬉しそうに話す愛美さん。

プラチナのなめらかな光沢が、お二人の指にすんなりなじんでいます。付け心地もとっても快適そう。

何度も立ち寄りたくなる、ichiの魅力

この取材中、何度か、ichiのスタッフさんとお客さんが楽しそうに談笑する場面に遭遇しました。

その様子は、昔からの友達?と尋ねたくなるほど自然で、なんだかとっても楽しそう!

こちらは、以前こちらで結婚指輪をオーダーされたという粂井さんご夫婦。旦那さまはミュージシャンです。今日は赤ちゃんが産まれましたーのご報告に立ち寄ったそうで、スタッフとおしゃべりに花を咲かせます。 お二人が旅先で見た夕陽をデザインした、という結婚指輪がとっても素敵です。

日本古来の素材を使い、日本の伝統工芸を用いて、世界に一つをつくる。これがichiの貫いてきた、使命ともいえる姿勢。

この、まっすぐな想いに魅了されるファンは多く、結婚指輪をichiで購入して、その後もリピーターになるカップルも珍しくないとか。

誕生日や記念日のプレゼントとして革のお財布をオーダーしたり、結婚指輪に入れたモチーフを、シルバーアクセサリーに彫ってもらったり。個性を出しつつも日常にすんなり溶け込んでいくアイテム、それがichiらしさなのかもしれません。

「素材本来の味を受け入れてほしいんです。指輪についた傷だって、その人自身の刻んできた年月ですから」とは、革職人の土居野さんの言葉。素材へのそこはかとない愛が感じられます。

また、"ものづくりが好きな人が集まったチームみたい"。

土居野さんは、ichiのことをこう表現します。スタッフ全員が「心あるもの作品をつくる」というゴールに向かってひた走る日々。まさにチームです。

愛を吹き込まれて生まれるのは、心のこもった“もの”たち。それを手にする人たちが新しい愛を生み出すように、との願いを込めて、一つ一つ送り出されていきます。

どうやらこの、こじんまりと心落ち着く工房は、愛をつくりだす場所でもあるようです。

取材協力

ichi(いち)渋谷店

■住所 : 東京都渋谷区神南1-5-14 三船ビル2F
■TEL : 03-3770-0789
■営業時間 : [月~金]12:00~20:00
[土日]11:00~20:00(年末年始休みあり)
■アクセス : 渋谷駅ハチ公口、原宿駅表参道口より徒歩10分